富士山麓と五合目を環境に優しい鉄道で直結し、増加する訪問者の交通を円滑化するための構想です。
山梨県では富士山五合目へのアクセス見直し策として、LRT(次世代型路面電車)や新交通システムを活用する計画が検討されています。
目次
富士山鉄道構想とは何か?
富士山麓と五合目を結ぶ鉄道構想は、訪問者の集中による混雑対策や環境保全の観点から山梨県が検討している計画です。
当初は路面電車(LRT)を利用する案が示され、県内外で関心が高まっています。
構想の背景と目的
富士山五合目は夏季における登山客や観光客で混雑が深刻化しています。
2013年の世界遺産登録後、「自然環境の保全」と「来訪者コントロール」が課題となり、五合目方面への自家用車利用抑制策が求められてきました。
こうした背景を受け、山梨県は来訪者数を制御しつつ輸送能力を確保できる新たな輸送手段として、富士山麓と五合目を結ぶ鉄道(登山鉄道)の構想を検討し始めました。
検討の経緯
富士山登山鉄道構想は2019年に検討会が設置され、2020年12月に基本方針がまとめられました。
その後も県は検討を継続し、2024年には事業化に向けた中間報告や技術的な課題調査結果が公表されています。
これら検討の中では、鉄道導入による輸送力確保のほか、登山道沿いのライフライン整備(電気・上下水道)の副次的効果も検討されました。また、急こう配や急カーブに対応可能な車両開発が大きな課題として指摘されています。
基本的な構想内容
当初の富士山登山鉄道構想では、富士スバルライン(自動車道)上に複線鉄道を敷設する案が示されました。
計画では山麓駅を富士吉田料金所付近に、五合目駅を現在の五合目駐車場付近に設け、中間駅は4か所程度配置する想定でした。
車両は蓄電池を搭載した3両編成で、一編成120人乗り、混雑時は2編成連結(6両)で運行し高速化を図る計画です。最高速度は約40km/hで、上下線ともに定員制とし、来訪者数をコントロールできるよう設計されていました。
富士山鉄道構想のルート案と駅計画

富士山登山鉄道構想では、現在の自動車専用道路である富士スバルラインを活用する計画です。
山梨県山中湖村付近の山麓から五合目まで、道路の中央部分に専用軌道を敷設するイメージが示されています。
想定されるルートと距離
検討初期段階で示されたルート案によると、山麓駅は東富士五湖道路の富士吉田料金所付近に設置される予定です。
ここから富士スバルラインに沿って五合目まで軌道を敷設し、総延長は約28.8kmとなる計画でした。
山麓駅の位置と役割
山麓駅が予定されている富士吉田料金所付近は、既存の富士急行線・富士急ハイランド駅から約2km離れた場所です。
駅には交通広場や広大な駐車場を整備し、マイカーや観光バスで訪れた乗客がここで鉄道に乗り換える計画です(パーク&ライド)。
五合目駅と中間駅
終点の五合目駅は、現在の富士スバルライン五合目駐車場付近に設置される予定です。
計画では駅を半地下化し周囲の施設もあわせて再編する構想で、登山口や展望台に近い位置に整備される見込みです。中間駅は沿線の駐車場や遊歩道の出入口付近など風景の良い場所に4駅程度が想定されています。
車両・技術の特徴

計画では路線の急勾配・急曲線に対応可能なLRT車両の導入が想定されており、蓄電池駆動の3両編成で運行する案が示されました。
一方、最新の富士トラム構想では鉄軌道を使わずゴムタイヤ式の車両が導入される点が大きな特徴です。
LRT車両の概要
富士山登山鉄道の計画では、1編成が3両で構成されるLRT車両を想定しています。
この車両は蓄電池で動力を供給し、ワンマン運転が可能な設計です。定員は約120人で、混雑時には2編成を連結して最大6両編成とし、一度に多くの乗客を運べるよう計画されていました。
新交通システムの技術
富士トラム構想では、鉄軌道を使わず一般道路上を走行する技術が採用されます。
車両はゴムタイヤ式で、道路に敷設した磁気マーカーや白線を認識して走行します。鉄のレールが不要なため大規模な敷設工事が不要となり、車両も電車とバスの特徴を併せ持つものとなります。
システム比較表
| 項目 | 登山鉄道(LRT) | 富士トラム(新交通) |
|---|---|---|
| 軌道方式 | 鉄軌道(レール) | 道路上磁気誘導 |
| 動力源 | 蓄電池(架線不要) | 燃料電池(水素)+蓄電池 |
| 車両 | 連接式路面電車 | ゴムタイヤ式バス型車両 |
| 最高速度 | 約40km/h | 約40km/h(想定) |
| 建設コスト | 高額(線路敷設工事が必要) | 低減(大規模工事不要) |
| 環境負荷 | 比較的小(電動車両) | 非常に小(地産水素利用) |
新交通システム「富士トラム」構想とは
山梨県は2024年11月、当初検討していたLRT計画を見直し、鉄道レール不要の新交通システム「富士トラム」導入の方針を発表しました。
これは電車とバスの両方の特徴を備えたハイブリッドな乗り物で、環境負荷を低減しつつ五合目へのアクセスを確保する計画です。
富士トラム構想への転換
富士トラム構想への転換は、LRTプランで想定される線路敷設工事の莫大な費用や環境リスクが指摘されたことによります。
県は線路を敷かない方式に切り替え、建設コストの抑制と自然環境保全を両立しようとしています。
富士トラムの特徴
発表資料によると、富士トラムは燃料電池による水素エネルギーを動力源とし、車体は2編成連結の6車体(計32m)を想定しています。
鉄道のレールではなく、道路上に設置した磁気マーカーと白線をガイドに走行します。軌道法が適用されるため一般車の進入が規制され、来訪者数の抑制にもつながる仕組みです。
リニア新駅連携と地域活性化
富士トラム構想では、富士山麓とリニア中央新幹線の停車駅(山梨県市町村連合付近)を直結する計画も盛り込まれています。
これにより富士山観光とリニア新幹線を結びつけ、県内観光客の誘致や地域活性化を図る狙いがあります。
実現への課題と展望

実現に向けては、さまざまな課題が残されています。
環境保護や財政面、技術面などのポイントを整理し、今後の検討課題を見ていきましょう。
環境保護と世界遺産の視点
富士山一帯は世界文化遺産に登録された地域であり、景観や生態系の保全が重要視されています。
鉄道敷設による植生への影響や、新たな構造物の増加が懸念されるため、自然破壊を抑える整備が求められています。
特に富士スバルライン沿いには貴重な高山植物が生息しており、植生破壊を避ける工夫が必要です。計画では道路中央に軌道を敷設する案や、自然に配慮した工法が検討されています。また、静岡県側とも協力して環境負荷を最小限にする対応が課題となります。
費用・財源面の課題
総事業費は当初、約1400億円と試算されていましたが、大規模な線路工事や車両整備には膨大な投資が必要です。
この費用を国や県の補助、民間投資などでどのように賄うか、事業主体を含む事業モデルの検討が課題となります。
技術面の課題
富士山五合目への連絡は標高差1200m超の急勾配区間を含むため、対応可能な車両の開発が必要です。
国内に前例がないため、安全性の確保や故障時の対策、降雪・凍結対策など技術的な課題が多く残ります。運行計画や鉄道法の適用も含めて検討が必要です。
今後の見通し
山梨県知事は「住民の理解を得ることが大前提」と述べており、現時点では具体的な開業時期は未定です。
今後は住民説明会や地元自治体との調整を経て、運行主体の決定など具体化に向けたステップが進められていく見込みです。
まとめ
富士山鉄道構想(登山鉄道構想)は、来訪者増加に伴う交通混雑や環境負荷を軽減するために山梨県が検討している計画です。
当初提案されたLRT構想はコストや技術面で課題が大きく、現在はレール不要の新交通システム「富士トラム」への転換が進められています。
ルートは現行の富士スバルライン沿いで、山麓から五合目まで約28.8kmを結ぶ計画です。実現には建設コスト、技術的安全性、環境保護など多くの課題がありますが、これらを乗り越えられれば安全で快適なアクセス手段となる可能性があります。
今後は県と住民、関係自治体が協力し最新情報を共有しながら慎重に検討が進められるでしょう。最新動向を注視しつつ、環境と観光の双方を両立させる解決策を探っていくことが重要です。
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