「せっさん」は山梨県独特の親指ゲームの掛け声で、県内では知らない人がいないほど親しまれています。しかしその呼び名や由来については、県外ではあまり知られていません。
本記事では、「せっさん」が使われる地域と意味、遊び方や由来を山梨の方言文化の視点から詳しく解説します。山梨県民にとって愛着あるこの言葉の全貌を知り、地域文化への理解を深めましょう。
山梨の各地で子どもから大人まで口にする「せっさん」。その背景には、古くから伝わる算数の文化や、方言としての地域性が関わっています。これから紹介する情報を通じて、「せっさん」を取り巻く山梨ならではの事情をしっかりと押さえていきましょう。
せっさんの地域はどこ?
「せっさん」の呼称が主に使われるのは山梨県全域です。特に甲府市を中心とする国中地方(県西部)では昔からこの遊びが親しまれており、子どもたちが学校や遊び場で自然と「せっさん」と声をかけ合ってきました。近年では山梨県内の各地域(郡内地方や南部地方など)でも認知度が高く、県境を越える前に親しんでいる山梨出身者は多くいます。訛(なまり)に細かな違いはあっても、「せっさん」という掛け声自体は県内共通の言葉になっています。
遊びの範囲としては主に山梨県内ですが、ごく一部では隣接する静岡県西部などでも「せっさん」と呼ぶ例が報告されています。しかし静岡や長野など近隣県でも一般には普及しておらず、ほとんどの地域では山梨の外では通用しない言葉と言えるでしょう。
山梨県外での呼び名と広がり
山梨県外では同じ指ゲームも様々な呼び名で知られています。他県では「せっさん」という言葉はほぼ通じず、たとえば関東や東海地方では「いっせーのーせ!」や「指スマやろー」のような掛け声で遊ぶのが一般的です。
このように地域ごとに呼称が異なり、方言色の強い例です。各地でよく使われる呼び方をいくつか挙げると:
- 「いっせーのーせ」:全国的に広く使われている掛け声。
- 「指スマ(スマホ)」:親指(指)を使うことからついた略称で、若者を中心に親しまれています。
- その他、「ばりちっち」や「たこたこ」など、地方独特の掛け声もあります。
これらの例からも分かるように、「せっさん」は山梨県外ではほとんど聞かれない方言的な呼称です。県外の人が「せっさんやろう!」と言っても通じないため、山梨県民同士でのアイデンティティを感じさせる言葉になっています。
せっさんとは?意味と遊び方

「せっさん」は複数人で輪になり、両手を握り拳にして親指を上に向けた状態で構える手遊びです。リーダー役の人が「せっさーん…」と声をかけた後、一定の間(例えば3秒程度)をおいて「1(いち)」「2(に)」「3(さん)」などと宣言します。参加者は声がかかったタイミングで自分が握り拳の中で上げている親指の本数(一人につき0本、1本、または両方の手を使って2本)を、合計で何本になるか予想します。
宣言された数字と実際に上がった親指の本数が一致すると、その場でその数を当てた人は片方の拳を下げます(ゲームから「抜けた」ことになります)。予想が外れた人は拳を下げずに次の周回に残ります。これを繰り返し、最後まで拳を下げずに残っていた人が負け(または勝ち)となります。一般的には全員が一度は手を下げるまで続け、最後に残った人への罰ゲームを決めることも多いです。
ルール自体は簡単ですが、相手の心理を読み合う要素もあり、子どもから大人まで楽しめるゲームです。人数が増えるほど難易度が上がり、誰もが盛り上がります。また、掛け声と判断のタイミングを合わせるために集中力も必要なため、子どもたちの間でも人気が高い遊びです。
せっさんの語源・由来

「せっさん」の語源については諸説あり、はっきりしたことは分かっていません。一つの説としては、中国から伝わった古代の指遊び「数拳(すうけん)」がルーツだとされています。数拳は平安時代から奈良時代にかけて伝播したと考えられており、山梨でも古くから算数や計算(和算)の文化が盛んでした。数を扱う遊びが定着する中で、親指のゲームにもこうした背景が影響していると考えられます。
また「せっさん」という言葉自体については、「積算(せきさん)」「説算(せつさん)」といった日本語の語感が関連付けられることが多いです。例えば「積算」は大人が計算して合計を出すこと、「説算」は算出した数を言い表す意味があり、どちらもゲームの内容を連想させます。山梨県立博物館の研究者の間でもこれらの語から派生したと考える説が支持されており、和算の盛んな土地柄から算数用語に由来する呼び名が生まれた可能性が指摘されています。
他にも、折り曲げた指の数を数える動作にちなんだ「折算(せっさん)」という説や、単に音の響きから転じたという説もあります。しかし現時点では決定的な証拠はなく、いずれの説も確証がありません。いずれにせよ「せっさん」は古くから口伝えで伝わってきた言葉であり、山梨人の生活や文化に根付いた呼び名といえます。
山梨県の方言分布とせっさん
山梨県の方言(甲州弁)は、大まかに西部の国中(くになか)地方と東部の郡内(ぐんない)地方に分けられます。国中地方(甲府市など)はかつて江戸と結びつきが強く、語尾が長く伸びる特徴(例:「ちがいない」→「ちげぇな」)や江戸言葉の影響を受けた表現が残っています。一方、郡内地方(富士五湖地域など)はやや標準語に近い発音が多く、語尾の長音化が控えめです。例えば「行こう(いくぞ)」は国中で「イクビー」などと発音される一方、郡内では「イクベー」といった風にアクセントが変わるとされます。
こうした方言差があっても、「せっさん」は県内全域で共通の遊び言葉になっています。誰もが小さいころから遊んでいる掛け声であり、山梨県民同士では世代を超えて通じ合う共通言語と言えるでしょう。実際、山梨県の郷土文化紹介でも「せっさん」に反応すれば山梨県人、というようなジョークが紹介されるほど、郷土のアイデンティティの一部となっています。
なお、静岡県西部の一部地域などでは近年になって「せっさん」と呼ぶ例が見られるようになったと報告されています。ただしこれも山梨県にルーツを持つ派生的な現象であり、一般にはやはり山梨県独自の呼称と考えられています。
まとめ

これまで見てきたように、「せっさん」は主に山梨県内で使われる言葉で、地域文化を象徴する掛け声です。他県では通用せず、それぞれ別の呼び名で同じ遊びを楽しんでいます。語源については「積算」や「説算」といった算数用語が由来との説が有力で、山梨に古くから伝わる計算文化との関わりが指摘されています。
現代でも山梨県内では子どもたちに根強く愛されており、大人にとっても山梨弁を代表する方言のひとつです。「せっさん」を通じて山梨の方言や歴史に触れることで、地域の文化的背景への理解がさらに深まることでしょう。
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